ドライエイジングビーフの作り方

マニュアル通りのやり方ではDABにはならないことも!

「ドライエイジング」を直訳すると「乾燥熟成」。うまく熟成させるためには、熟成庫内を適切な温度と湿度に保つ必要があります。

一般的によく言われている条件で、「日本ドライエイジングビーフ普及協会」でも基本的な要素として挙げているのは、次の3つです。

  • ①温度は1〜2℃前後
  • ②湿度は70〜80%程度
  • ③強い風を当てて熟成する

しかしこれらは、うまくいっているドライエイジング熟成庫の物理特性を抜き出しただけのこと。実際にはもっともっと、経験に基づいた細かい管理が必要です。
つまり、マニュアル通りにやったとしても、簡単にDABができあがるわけではないのです。

そこに、熟成という技術の難しさがあります。

熟成の基本要素

肉の特性を把握することも大切

牛肉は、長い時間をかけて熟成されることにより、酵素の働きで旨み成分のひとつであるアミノ酸が増加します。
ですから、牛の個体が長期の熟成に耐えうるかの見極めも大切です。

NYスタイルのDABは水分活性を下げることが最も大切!

上で、NYスタイルのドライエイジングに必要な3つの基本要素を挙げましたが、最も重要なカギとなるのが「強い風を当てて熟成する」ことです。
NYスタイルならではの柔らかな肉質、芳醇な香りを持った、旨みの濃いジューシーな肉に仕上げるには、風が必須です。
風を当てることで、肉の「水分活性」が下がるからなのです。

水分活性

熟成が進んだ肉は、不要な水分が抜けている。

食品に含まれる2種類の水分

食品中にある水分は、「自由水」と「結合水」という2種類に大別されます。

「自由水」とは、肉の内部を自由自在に移動できる水分。栄養豊富なため、微生物が繁殖しやすい水分です。
ちなみに、解凍した肉から出るドリップは「自由水」によるものです。

一方「結合水」とは、食品の主成分であるたんぱく質や炭水化物としっかり結びついた水分で、ほとんど外に流出することはありません。
外に流れ出ない分、微生物や雑菌も繁殖しにくいといえます。
そして、「水分活性」とは、食品水分中の自由水の割合をしめる指標のこと。つまり、「水分活性を下げる」とは、余分な自由水を減らすことを意味します。

肉の水分

風で自由水を引き出す

では、風を利用して水分活性を下げることでいったい何が起こるのでしょう。
ファンを備えた大きな冷蔵庫内で、台風がきたかと思うほどの強風を牛肉に当てると、肉の自由水がじわじわと表面に出てきます。
自由水が移動してくると、熟成に必要な微生物が繁殖できるようになるので、カビなどがつくのです。

また、不要な自由水が抜けることで、肉のたんぱく質やミネラル分、旨みや香りが内側に凝縮されるというメリットも。
それでも、細胞内の結合水は残ったままですから、肉のジューシーさは損なわれません。

このように、風を利用して自由水を引き出し、結合水だけの状態に近づけること。この技術こそが、NYスタイルの大きな特徴です。
なお、熟成が進むにつれ、牛肉中から放出される水分量が減っていき、表面がしっかり乾いてくると、水分を必要としていた微生物たちがおのずと死滅してゆきます。
そこが、熟成期間を見極めるひとつの目安です。

真空パックの肉は熟成には適しません。

現在、「熟成肉」として流通しているものは「ウェットエイジング+NYスタイル」が最も多くなっています。
特にUSビーフ、オージービーフといった真空パックで輸入される肉で「熟成肉」と名乗っている場合、ほとんどがこのタイプです。

しかし真空パックの肉は、ほぼ追熟はしません。その多くは船便だからです。
船内で真空パックのまま(ウェットエイジングの状態)で数週間が経つ間に、熟成が終わってしまいます。
それを日本へ到着後、パックから出して熟成庫に入れても変化は望めないどころか、腐敗に近いフレーバーが出てしまう危険性が高いのです。

真空パックの注意点

大切な酵素まで流出してしまう

また真空パックをする際にバキュームで吸引することで、肉にダメージを与えたり、活性酸素が発生したりします。

熟成に重要な働きをする「自己消化酵素」も肉から流失してしまい、DABの特徴であるフレーバー(特有の風味)やテンダネス(柔らかさ)を 損なうことになりかねません。

輸入肉の「熟成肉」は、「現地でドライエイジングしたものか」を確認することをおすすめします。

微生物が生み出す!? 独特なフレーバーがDABの要。

NYスタイルのDABは、熟成の際に有用な働きをする特定の微生物が、酵素をつくり出してたんぱく質を分解し、アミノ酸を増やします。
さらにそのとき、DABの要である独特なフレーバー(熟成香)が生まれます。

熟成中に、肉の表面に出てきた自由水に微生物は繁殖しますが、その微生物と肉が持っている酵素の相互作用により、このフレーバーが生じると考えられているのです。

菌が繁殖しやすい環境づくり

ただし、熟成に必要な微生物を牛肉に十分付着させることは、そう簡単ではありません。
熟成庫に菌床をつくったり、ほかの雑菌を寄せつけない工夫をしたり、シビアな環境づくりに取り組む必要があります。

現在、日本でも、信頼できる業者は特定の菌種を分類しています。
彼らは、熟成庫を新しくする際、まずスターター菌を噴霧し、熟成庫としての完成スピードを確実に上げています。
一方、何も施さない自然状態からスタートした熟成庫内でも、肉を入れて熟成し続けるうちによい菌環境ができあがることがありますが、それは稀なことです。

単に冷蔵庫に吊るしておくだけでは、失敗することが多いのは、こういった理由があるからなのです。

微生物の働き

ニューヨークにあるステーキハウスの名店では、微生物が付着したトリミング後の部分を熟成庫に置いておくなど、微生物が繁茂しやすい環境をつくっている。

DABの熟成にかかる日数は、日本では40〜60日が目安。

熟成にかかる日数は、本場アメリカでは、21〜28日程度が一般的です。

しかし、日本の場合は、アメリカと気候や乾燥状況、常在菌の状況も違います。ですから、同程度の日数でうまく熟成できるとは限りません。
牛肉の質などにもよりますが、40〜60日ぐらい熟成させるのがよいようです。

求める肉の味によって変わる

DABは、熟成の過程で表面にカビが生えます。乾燥した表面を削り取って提供するため、歩留まりはだいたい70〜60%程度。
その数字は、業者や熟成のスタイルによって異なり、また、熟成期間が長くなるにつれ下がります。
この熟成期間は、「どんな味わいの肉を求めるか」によっても、変わってくると言えるでしょう。

なお、骨付きでない肉を熟成させた場合はすべての面を削り、形が変形してしまうため、その分、歩留まりはもっと悪くなります。
ですから、骨付き肉を熟成させたほうが無駄が少ないうえ、熟成もうまくいきやすいと考えられています。

ドライエイジングに向いている肉の条件とは?

NYスタイルのドライエイジングは、牛肉に風を当てて水分活性を下げ、独特の味に仕上げていきます。

そのためこのスタイルは、水分の多い肉が最適。
牛肉の水分は赤身に含まれているため、ホルスタイン、短角和種、褐毛和種などの品種で、しかも赤身肉が向いているのです。

では、サシの多いA4、A5ランクの黒毛和牛はどうかというと、このスタイルの熟成に向いていません。
脂が多い肉は水分量が少ないため、風を当て続ければ乾燥し過ぎてしまい、脂が酸化して風味が落ちることもあります。

ですから、黒毛和牛を熟成する場合は、経産牛やA3以下の牛肉、モモ肉を使うことが多いのです。

最適なのは赤身肉

ただし、A5クラスの和牛で成功している事例もありますし、赤身肉を使えば必ずしもうまくいくわけではありません。

肉は個体差があります。ですから、個体ごとに長期熟成の向き不向きを見極めることも大切です。

いずれにせよ、NYスタイルのドライエイジングに最適なのは、赤身肉です。
将来的には、赤身肉のおいしいDABがもっと広く普及し、牛肉の世界が多様化していってほしいものです。

ドライエイジングビーフに向いている肉の条件

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